可愛い生徒(カノジョ)の育て方
 データ本を机の隅に押しやる安西を見ていたら、かつての自分の姿と重なった。

 ……胸が痛い。自分ではどうしようもない理由で夢を諦めるのは、自分だけでたくさんだ。

「……安西、お前の夢は大学に入って終わりか? 大事なのは、その大学で何を学んで、今後の人生にどう生かすかだろ。お前が勉強したい国文学を、いい環境で学べるのはどっちだ?」


 ……わかってる。

 安西を追い詰めていることも、本当の気持ちも。

 叶わない夢を見るのが、どんなに辛いことなのかも。

 でも、このままF女子でいい、というのはもったいない。

 これだけの短期間で、ここまでできる生徒だ。

 きっと、ここにも合格できる。

 黙りこむ安西に、俺は静かに語りだした。


「受けるだけ受けてみるのも手だぞ。受かったらこっちのもんだろ。F女子より受験日が早いから、腕試しの記念受験だって言って受けてみろよ」


 しばらく考え込んでいた安西は、無言で小さく頷いた。

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