可愛い生徒(カノジョ)の育て方
 ボタンを押す手が震えた。

 ……寒さのせいに決まってる。

 1コールで出た。

『もしもし』

 ちょっと高めの、甘い声。

「明けましておめでとう」

『あ、おめでとうございます。今年もよろしくお願いします』

「今、電話、大丈夫か? どこにいる?」

『自分の部屋です。大丈夫ですよ』

「そっか。俺は今、車の中。運転はしてない。静かなところに避難してきただけだ」

『先生は、どこかお出かけだったの?』

「ああ、実家。うるさくて電話どころじゃないからさ」

以前写真で見せた甥と姪がうるさくてしょうがないことは、容易に想像がつくだろう。

『ごめんなさい、先生。せっかく楽しいお正月だったのに』

「気にすんな。それより、ご両親とどういう話をしたんだ?」

 今はその話が最優先だった。

 手足が凍りそうな程寒い車内で、彼女が自分の頭の中を整理しながら、ぽつりぽつりと語るのを聞いていた。
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