可愛い生徒(カノジョ)の育て方
 今でも情景が浮かぶ。

 黒いモニターに写し出された緑色のラインがまっすぐになって、ハートマークの数字が0と表示される。

 先生が腕時計を見る。

 お袋と姉貴は、ただただ涙を流して、親父の顔を撫でていた。

 俺はまだ「これは悪い夢なんじゃないか」と、呆然と立ち尽くしていた気がする。

「毎年、学校祭のたびに思い出すんだ。今日の13回忌法要も、俺だけ欠席。日曜日とは言え、学校祭に年休取れないもんな。担任持ってたら気が紛れるんだけど、今みたいな立場だとダメだな。暇だと余計な事ばかり考えるからさ。
 不況と、デジカメの普及、全国チェーンの子ども写真館が出店してきたことによる顧客離れ。
 さらに学校の統廃合で、卒業アルバムの発注も減って、写真館は俺が中3の時に倒産したんだ。
 親父はその頃、自分の店も家も失って、失意のどん底にいた」

 痛みにずっと悩まされながらも、死ぬ間際まで俺達の事を心配していたらしい。
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