口付けを忘れずに
中々言葉を続けないと少し苛立ったが、相手はそれを察したかのように早口で私に要件を告げる。
「えっと…、
さっき先生が放送で一条さんの事呼んでたんだけど…中々来ないから俺に呼びに来いって…。」
「どの先生?」
「えっと確か…数学の多部先生だったと思う。」
「分かった。わざわざどうもありがとう。」
どう致しましてと呟く相手を一瞥すると、上下揃った真っ黒な体育着を律儀にもチャックを首元までに閉めていて着用していた。
「…これから部活?」
何気なく思いつきで尋ねてみると、相手は酷く驚いたように目を大きく見開いた。
「あっ、はい!そうです。サ、サッカー部です…。」
いきなり敬語で語りかけてきて、私は戸惑いながらも適当に相槌を打ち、別れを告げた。