鈴音~生け贄の巫女~
「誘拐とは、同意なく人を連れ去ることだな。それは違うだろう。お前は、自分から此方に来た」
「迷ったんです!」
子供がいやいやと首を振るような仕草。
それを見ながら、男は懐に手を入れた。
「否。お前は"呼ばれて"此処に来た」
「呼ば、れて……?」
「神に呼ばれし者だ。お前にはこの音が聞こえないか」
―――………チリン。
それは、透明な音だった。
鈴の音。
確かに聞き覚えがある。
自分は、この音を聞きながら洞窟の中を歩いていた。
「この音は、選ばれた者にしか聞こえない。神に選ばれた者にしか聞こえないものだ」
「選ばれた、者にしか、……」
「嗚呼。だから俺には聞こえない」
そう言って、再び手に持つ鈴をチリンと揺らす。
確かに、それは空気を揺らし振るわせて、凛の耳に届いているというのに。
それが、目の前で鈴を揺らしている本人には聞こえないと言うのか。
「おかしなものだな。こうして横に揺れる鈴だけが見える。鈴とは、揺れるたびに空気を振るわせるものであるはずが」