鈴音~生け贄の巫女~
一瞬だけ、そう言った男の表情に影が落ちたような気がして。
凛は暫し言葉をなくす。
「部屋に戻れ。お前はこちらに来て一口も食べていない、腹が減っているだろう。朝食を運んでおいた」
そんな凛に、短くそう伝え。
男は踵を返そうとしたところ、着ている簡素な服の裾を捕まれて足を止めた。
その先を見れば細い女の手が、小さく、されど必死にすがるように見えたのは何故か。
「どうした」
静かに、半ば呟くような声で問う。
「あ、え……と、あの、御名前聞いても良いですか」
「名?」
「はい。あ、私は、東条凛(とうじょうりん)です」
「………シンだ。シン・ケヴィル」
そうして再び凛を見下ろすも、何やら掴んだ手を下ろそうとしない様子にシンは密かに息を吐く。
それにびくりと肩をゆらした凛は、恐る恐るシンを仰ぎ見た。
「傍にいよう。そんな顔をするな」
凛の頭の上に手が乗せられ。
さっきまで必死に突っ張ろうとしていたシンを相手に、はやくもほっとされたのは、致し方ない。