鈴音~生け贄の巫女~
しかして、その笑みにつられるようにして笑みを深めた千夜と百夜はほっと息を吐く。
良かった、――――………些かの警戒心は溶けてくれたようだと。
さてもそんな二人の心情に気付かぬ凜は、宴の開かれている広間の中をくるりと見渡して。
ふぅ、と短い溜め息を吐く。
「すみません。なんだか、人の多さとお酒の臭いに酔っちゃったみたいで。ちょっとお庭に出て外の空気を吸ってきますね」
凜がまだ未成年であると言うに、お酒を宴に持ち出すところやはり現代とは感覚が違うような気がしなくもないが。
「ではお付き添いに、」
ともあれ、例え庭であろうと一人外に出るのは危険だろうと付き添いを名乗り出た百夜であったが。
「いいえ、百夜。少し行ってくるだけですし、あの、」
「察せ、百夜。お一人で考えたいこともあろうに」
凜の様子、兄の言葉を聞いては配慮が足りなかったと肩を落とし。
そんな百夜に気にしないでくださいね、ありがとうと告げながらそっと広間を後にする凜のなんと出来たことか。
お陰で宴の主役がいないことに誰一人として気付かずに、どんちゃんと賑やかな音や声は変わらない。