鈴音~生け贄の巫女~
…………チリン。
鈴の音に誘われるように、暗闇の中を歩く少女がいた。
たった一人、周りに誰もいない中を不安げに歩く少女。
名を、凛(りん)と言う。
黒く長い髪は揺れることもなく、つまりは風のように空気を揺らすようなもののないなかで。
不安げなことは致し方ないことか。
そもそも何故こんな所を歩いているのかと問われれば、……答える事が出来ないのだ。
何故ならば、それは「いつのまにか此処にいた」からであり。
学生である自分が、高校へと向かう途中で何時、何処でこんな暗い道に入ってしまったのか全くもってわからなかった。
ただ、ジャリ、という砂利を踏む音は聞こえる。
響く。
故に、自分がどうやら洞窟を歩いているらしい事は知れた。
暫く歩けば、ずっと先にポツンと灯りが見える。
不安に負けて疲れた足を止めようとしていた凛は、それを見て走りだす。
(誰か、いる、かも知れない……!)
お願い、居てくださいと心の中で願いつつ、その表情は僅かな希望にくしゃりと歪み、今にも泣き出しそうになった。
近付くにつれて鮮明に見えてくる揺れるオレンジの灯り、それに照らされて―――……一つの人影を、凛の潤んだ黒目が捕らえたのだ。
「―――……っ!」