鈴音~生け贄の巫女~
心臓が鳴る。
ダメだ、だめだ駄目だダメダ……!
警告が聞こえる。
なのに何故か後にひけない。
「その、神隠しに遇った者がたどり着く場所。一つの村だ。名を、安良波(あらなみ)村」
「……まっ、……って下さい、神隠しなんて、そんな……」
混乱する。ただただ混乱した。
「そんなの、実際あることじゃありませんよね?」
「いや、ある」
「でも、家出、とか、……誘拐、とかで」
「それもある。が、お前が今此処にいるのは、」
――――………心証証明、「神隠し」に遇ったが故、だ。
そんな声を聞きながら、凛は呼吸が難しくなるのを感じた。
「――…っ、……、…」
背中に、暖かな感触も感じつつ、ぺたりと地に尻をつく。
「直ぐに理解できまい。しかし、事実だ。そして俺は、お前を待っていた。お前を村まで案内をするのが俺の役目だからな」
意識が遠退きつつあるなかで、さっきまでは抑揚も感情も見られなかった男の言の葉に、優しさが滲むのに気が付く。
しかして、その言葉に頷き案内してもらえば良いのか、それとも嫌だと首を振り元の世界に返してと言うのが正解か。
今の状況だけで十二分に混乱している凛には、当たり前に後者を選ぶべき時にそれが出来なくなっていた。