鈴音~生け贄の巫女~
「で、アンタ名前は?」
「――……ッ、」
そんなことも知らずに私をこんなところに連れてきたのかと、むしろ私自身を知らぬのならば何故こんなところに誘拐する必要があるのかと、凛は込み上げる疑問と怒りに似た感情に喉を詰まらせる。
もともと恐怖により畏縮しきったそれは、少しの感情の揺れでいっぱいいっぱいになる。
「聞いてるかなーぁ。俺、同じこと言うの嫌いなんだよなあ。あ、もしかしてあれかな、人に名前聞くならテメェから名乗れ的な?………うっぜ」
先程より近くで聞こえる声に、喉を詰まらせ声の出ぬままに肩をビクンと竦め。
震える唇を開けば、最初はやはり震えた吐息ばかりが出た。
「……………あ、」
おや、と男が黙るのを感じる。
出てきた声、それは男がこれほどの近さで凛の声を聞いた、初めてものものであるに。