鈴音~生け贄の巫女~
その背中を擦る百夜がいつもと変わらぬ元気な笑顔を向けてくれるものだから、凛は無性に泣きたくなった。
迷惑をかけてしまったと、ただそれだけのことに。
「さて、そこな二人よ」
やけに静かな、しかし怒りの籠った千夜の声が五木と神威に向かう。
「凛様を拐うからには相応の理由があると見えようか」
「……だったらどうだって?」
「その、理由くらいは聞いてやろうと言うもの」
「へぇ。意外とお優しいんじゃない?けど、そんなこと言う義理もねぇよ、バーカ」
乱暴に、さっさと消えろとばかりの言葉。
この場に来てからというものの、ずっと無表情であった千夜の眉が僅かばかりしかめられた。
それに気付いた者は一人たりとていなかろうに、声色にもださぬその感情はやはり誰にも気づかれぬ事か。
さても。