鈴音~生け贄の巫女~
03
夢だったのか。
否、そう思うにはあまりにリアルなものだった。
泣きながら目を覚ました凛は、その雫を拭うまもなく布団から起き上がる。
辺りを見回せばそこは全く知らぬ場所、兎に角ここから抜け出そうと思い立ったのは頭の中にしかと神隠しにあったのだという言葉が突き刺さっていたからだ。
まだ戻れるかもしれないと淡い希望を抱いてそろりと廊下に出てみれば、幸い人影はいない。
ただ、木で出来たそれはキィと音をたて、たったそれだけの事に凛の胸は大きく跳ねた。
木造、しかも昔の家のような造りであると見受けられるこの家は、ところどころガタがきているようで。
静かに歩いているつもりが、時々音を鳴らす。
「どこに行く、女」
不意に背後より聞こえた声に、ピタと足を止めた。
廊下が軋み鳴る音ではない、紛れもなく人の声。
聞いたことがあるそれは、確か洞窟の中で出くわした男の声だ。
振り向けば確かに、当時はオレンジ色に照らされていた銀髪が見える。
自分より幾分背の高い男は、頭二つ分くらい高い場所から見下ろしてくる。
こういうとき、背が小さいのは嫌だと凛は何処か冷静な頭で思う。