ナ ニ モ ナ イ ト コ ロ【思集】
しかし、立ち止まってばかり居ても事態は変わらない

いや、変わらないのは景色だけだ…

事態も然程変わりはしないのだが、この雪は『今』をいずれは閉じ込めてしまうだろう

死してくち果てて行くのであればまだ良いが、死して尚、今をそのままに閉じ込められる事に恐怖すら感じる

このままでは、ただ形を留めたまま熱を失い、弾力を無くし、思考が停止し、意識が消える

果てる事すら出来ない、人の形をしたただの固体に変わるのだ

そして、冷たい雪に埋められ、風に隠され、人知れず大地の見えざる所に、ただ『有る』だけの物体に変わるだけだ

──恐怖だ

ならばどうするか…

これ程までに考えるという事の無意味さを感じる事はない

来た道も白、行く道も白

風はごうごうと

雪は深深と

留まる事に感じるのは、末恐ろしい恐怖…

今にも閉じかけた目は、まだ微かに細く開き、前方と定めた場所を見る事が出来る

小さく声を発すると、喉を鳴らして音が響く
響く音を聞いているのはこの耳である

こんな時、『鼻が効けば』いいのだろうが、そうは旨くもいかないものだ


< 42 / 128 >

この作品をシェア

pagetop