鬱になれる短編集
中に入ると母親がいた。台所に立っていた。しかし、いつも寝ている場所に父親がいなかった。母親に尋ねる。

「喜びなさい。お父さんはね、良くなったわ」

話を聞くと、喉に軽い後遺症は残ったものの、元気だそうだ。少女は飛び上がって喜び、数時間前、荷台のある車に乗って隣町を目指したという父親を待った。

「少しやつれたような顔で、一目では本人だとわからないほど変わってしまったけれど、優しいお父さんのままよ」
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