鬱になれる短編集
上部のくもりガラスから差し込む光があるだけで、薄暗かった。
外を眺めることはできない。ここは囚人収容のための部屋なのだと結論を出したのは、ずいぶん昔のことだ。
十メートル四方ぐらいの広さで、鉄格子で二つに区切られている。それぞれに一人ずつ私と男が入れられていた。
収容部屋と言っても、監視員が見回りすることもなければ、釈放や処罰を言い渡されることもなかった。隣の彼が話し掛ける。
「ここに入れられたのはいつだったろうか」
「記憶がない。それほどに昔ということだろう」
最低限の生活はできる。備え付けの蛇口があり、ゼリー状の食料が出た。なくなることはなかった。だから生活にも困らない。隣の彼は天井を見つめながら、
「ここから出たら何をする?」
「恐らく何もできないだろうな。長い間社会と離れていたから、順応できないだろう」
「外を見たいとは思わないのか」
「思わないね。食料はあるし、健康だ。ゼリー状のあれが体に良いのだろう」
一日中、寝るとか話すとかして過ごす生活。同じことを繰り返す、地面に描かれた円をずっとなぞるような。そうして待っている。誰を?
「動けよ。ここにいても何も変わらない」
彼は言い、天井から目を離さないで立ち上がった。夜明けの薄明かりが彼を照らしていた。眩しかった。私は答える。
「世界は変わらない。正しい秩序の中で、その正しさを繰り返す。そんな当たり前を君も気付いているんだろう?」
彼は無気力に笑い、壁を登っていった。
土埃が舞ったのは少し後の話だ。