鬱になれる短編集
……よかった。
三葉は安堵した。普通の人には無意味な知識だったが、円周率は興味本位で覚えていた。
ディスプレイにタッチし、入力していく。
三.一四一五九二六五三……、手が止まる。
次の数字が思い出せない。
番号の羅列の背景ではクロラが指を折りながらカウントダウンしている。
残り三本。
三葉は声をもらした。
断末魔の叫び。補食者に追い詰められた被食者のようであった。
体をよじり必死に思い出そうとする。記憶の中で霧のかかった数字の羅列を懸命に見つめる。不正解は死を意味していた。
五。そうだ、五だ。
自分で構築した妄想を信じ込み、五と入力した。
自分の一生を賭けた入力。