なつみかんの花びら
「んーっ〜〜」
ゆるりと寝返りを打つ。
自分の部屋じゃ、ない。
あ、そっか。
おじいちゃんの家か。
「懐かしい夢、見たな──」
君と彼女と僕の過去。
あの頃の日々は、柑夜にはどんな風に映ってたのかな。
再会すらまだ出来てない今は、訊けないけど。
今日も弟の夏樹が柑夜と会っていて、たくさん頑張ってくれている。
だけど、少しズルいな……なんて。
「にーちゃぁん。ちょっとー」
まさに噂をすれば。
玄関から夏樹の大きな声。
こっちに自分から来る気はないらしい。
結婚式の準備がけっこう忙しくて、疲れてるのに。
「何だよ」
よっ、と立ち上がり玄関へ行くと、
「蜜樹くん、おめでとうっ」
震える声で笑顔を浮かべた柑夜がいた。
やっぱりウソが吐けないんだね。
まだどこか傷ついた表情で、なのにどこか優しいんだ。
あの頃と変わったことがたくさんある中、変わらない笑顔がここにはあって。
もう、全てが大丈夫だと思った。