なつみかんの花びら
「にーちゃぁん! 待ってよぅ」
いつもおれに優しいにーちゃんは、この時だけは待ってくれない。
「ダメ。
夏樹はおじいちゃんといなよ」
「やだよっ。
おれもにーちゃんと柑夜と遊ぶうー」
振り返った柑夜のふわふわとした、首あたりの髪が揺れた。
いつもなつみかんの甘い香りがして、笑顔が可愛くて、にーちゃんと同じくらい優しい柑夜のことが。
おれは大好きなんだ。
だけど、
「夏樹くんはまだちっちゃいから。
もっとおっきくなったらねー」
「おっきくってどれくらいだよっ」
「さあ? わかんないけど、まだまだ先だね」
こうやっておれをガキ扱いするところは嫌いだ!
むぅっとむくれたおれを置いて、ふたりは楽しそうに声をあげながら駆けて行った。
こんなスピード、追いつけないじゃんかっ。
少しわざとらしく、ため息を吐いた。
そして静かにふたりが走って行った方向を見つめる。