水没ワンダーランド
「那智!!どうしたんだよ?返事しろよ!」


山本の声で、我にかえる。

聴覚はしっかり戻っていた。


「あ…いや…大丈夫」


「あーびっくりした!!急に固まってさ。なんの一発芸だよ」


「一発芸じゃねえよっ」


(さっきのも、夢…?それとも俺の耳がおかしかったのか?)



さっきの教室のモノクロ現象に続いて、次は耳が聞こえなくなって、仕舞いには幻聴が聞こえた…?
時計の音と、狂気に歪んだあの声が耳に残る。


“おもしろいことになってきたね”


(…いや、全然おもしろくねえよっ!)

那智は気味の悪さに身震いした。


「なあ、山本……」


「うん?」


「俺さあ…病院行った方がいいかな」


ピタッと山本が固まった。

そしてまるで恐ろしいものを見るような目で那智を凝視する。


「大変だ…那智が勉強のしすぎでおかしくなった…。ストレスか?!ストレスなんだな!?何が一体そこまで那智をそこまで追いつめたんだ…」


「お前は精神科行っとく?」


那智が笑った。


キーンコーンカーンコーン。


また授業を告げる鐘が鳴った。


「やべっ…おい、走るぞ那智っ」


走り出す山本。

ふざけているヤツだが、ナルシストで軽いということを除けば

バスケットボール部キャプテンでスポーツ万能、顔だって悪くない。というよりマジメにしていればかなり整った顔をしていることが分かる。


那智は改めて

(こいつはどこで道を間違ったのだろう)

と思う。


バカで底無しに明るい山本といると、さっきの気味の悪い現象も少しは忘れてしまうのも、また事実だった。


鐘は鳴る。


「那智はやくしろよー」


山本に呼ばれて、那智は後を追った。

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