水没ワンダーランド
キーンコーンカーンコーン。


授業の終了を告げる鐘が鳴る。


「じゃ、今日はここまでな」


国語教師はあっという間に教卓の上を片付けると、さっさと教室を出ていく。




緊張が解かれて、
とたんにざわめく教室。



「那智ー、腹へったから購買行こうぜ……って怖!!なにお前そんな怖い顔してんだよ?!」



大あくびをしながら、那智に話しかけた山本は大げさに飛び退いた。


「…俺、怖い顔してた?」


「してたしてた。何?なんか嫌なことあったワケ?」


嫌なこと。大いにあった。



色が消えたなんて言ったら、山本は驚くだろうか。



それよりもまず信じてくれるだろうか?




「…なんにもねえよ。俺も購買行く」



那智は席を立つ。



(忘れよう、今のは)



もし本当のことを言ったとしたら、


腹をかかえて転げまわった上に、


散々那智をバカにして、


どさくさにまぎれて女子をナンパするであろう、友人・山本を想像して



那智は今の怪奇現象を「忘れる」ことに決めた。



現実のわけがない、あんなこと。



< 6 / 87 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop