水没ワンダーランド
「……何か、名前がわかりそうなもの持ってないのかよ?」
「な、何も……」
腰から徐々に広がっている真っ白なワンピースをばたつかせて、女の子はポケットの中を探ったりぴょんぴょん跳んだりした。
何の音もしないし、何も見つからない。
「……あ!」
女の子が自分の足元を見て、思いついたようにしゃがんだ。
スリッパとサンダルの中間のような履物を脱いで、嬉しそうにそれを掲げる。
「ありました!」
「靴……?」
「ここです、ここ!」
女の子が小さく細い指で靴のかかと辺りを指す。
目を細めてよく見てみれば、そこにはマジックで書かれたらしい、いびつで少し滲んでいる文字があった。
「えす、ゆー、えす、あい、いー?」
女の子がたっぷり時間をかけて書いてあるアルファベットを読み上げた。
SUSIE―――。
(これ、どっかで見たなあ……あ、そうだ、英語の教科書だ)
「これ、名前ですかね?なんて読むんでしょう」
女の子の疑問に、那智が答えようと口を開く。
しかし、チェシャ猫の方が早かった。
「すしえ?……寿司江?」
「すしえ!とっても素敵な名前だったんですね、私!」
「スージーだろっ!!」
那智が噛みつくように言い放った。
そもそも寿司江なんていかつい名前を当てはめるチェシャ猫もチェシャ猫だが、その名前を素敵と言う女の子のセンスも計り知れない。