水没ワンダーランド
「ずっと続くって……ずっと!?果てなく?」
「うん。ここは原っぱの国だから、どこまで歩いてもずっと草原」
国、とチェシャ猫が言った。
しかし那智たちの世界で言う、国、とは少しニュアンスが違う。
那智たちの地球ではひたすら進んでいればいつかは隣の国に辿りつく。
(物理的に言えばっつーことで、現実味はねえけどな)
けれどチェシャ猫は、いつまで歩いたとしても草原は草原のままだという。
「ちょっと待って、説明のことばを考えるから」
そう言ってチェシャ猫はしゃがみ、わざとらしく頭を抱えた。
容量の悪さと自分の無知をとことん嫌う那智に怒鳴られる前に、
自分から説明することを少しは学んだのかもしれない。
「こっちの世界にはいくつもの国があるけど、全部は繋がってない。重なりあってるけど、国と国は繋がってない。次元が違うから」
さんざんうなって、彼が導きだした答えはひどくわかりにくいもので。
那智は眉間に皺をよせた。
「却下」
「却下!?」
那智がすぐさま吐いたセリフに、チェシャ猫はショックを受けたらしい。
その場に座りこみ、指でのの字を描いている。
「おまっ…猫のくせになんでそんな古典的なスネ方を……」
「那智さん、一言一言が厳しいんですよっ!私なら今の説明で解りましたよ?」
スージーが誇らしげに胸を張る。
次にショックを受けたのは那智だった。
(嘘だろ…俺より先に、こいつが…)
「ミルフィーユみたいですよね」
「…は?」
「だから、ミルフィーユ」
那智は瞬きをして、スージーを見つめる。
しかしスージーは至って真面目にミルフィーユと言い切った。
「……腹減ってるのはわかったから」
「なっ!違います!……ミルフィーユって、何枚もパイ生地が重なって層になってるじゃないですか。
だから、この世界も国がいくつも、横じゃなくて縦に繋がってるんじゃ…」
ミルフィーユに例える辺りは奇抜だが、チェシャ猫の不親切極まりない説明からここまで想像できるとは、いよいよ小学三年生とは思えなくなってきた。
敗北感をなんとか隠そうと、那智は眉間に皺を刻んだままスージーを見つめる。
(やっべ…まじでコイツ、あなどれん…)