水没ワンダーランド

「大体、いくつぐらいの国があるんだ?」


チェシャ猫はふと自らの両手に視線を落とし、指折り数える仕草を始めた。



袖から見えるチェシャ猫の手は、いたって普通の青年の手だった。


やがて、チェシャ猫がつぶやく。


「……いちおく以上」


「お前、それを手で数えようとしてたのか…?」


那智は呆れて乾いた笑みを浮かべた。

チェシャ猫は耳をぴくぴくさせて、ひらひらと手を振る。


一奥以上の果てのない国が重なっている世界。


そこに紛れこんだ少なくとも百数人の人々。


気が遠くなるような数字だった。
那智はこめかみを押さえ、目眩に耐えた。


能天気なスージーとチェシャ猫は、那智の心境も知らずにヘラヘラと緩い笑みを浮かべている。


チェシャ猫に至っては、いつでも口がさけそうなほど笑っているのだか。

< 68 / 87 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop