水没ワンダーランド
「大体、いくつぐらいの国があるんだ?」
チェシャ猫はふと自らの両手に視線を落とし、指折り数える仕草を始めた。
袖から見えるチェシャ猫の手は、いたって普通の青年の手だった。
やがて、チェシャ猫がつぶやく。
「……いちおく以上」
「お前、それを手で数えようとしてたのか…?」
那智は呆れて乾いた笑みを浮かべた。
チェシャ猫は耳をぴくぴくさせて、ひらひらと手を振る。
一奥以上の果てのない国が重なっている世界。
そこに紛れこんだ少なくとも百数人の人々。
気が遠くなるような数字だった。
那智はこめかみを押さえ、目眩に耐えた。
能天気なスージーとチェシャ猫は、那智の心境も知らずにヘラヘラと緩い笑みを浮かべている。
チェシャ猫に至っては、いつでも口がさけそうなほど笑っているのだか。