水没ワンダーランド
購買に向かう途中。

山本がいきなり那智に向き直って、両手を合わせた。


「……なんのマネだよ?」


「さっきの授業寝ちまってさ……頼む、ノート写さしてくんね?」


「え?あー…悪い、俺も寝てた」


「え?」


山本はキョトン、として立ち止まった。



「オイオイ嘘だろ!?那智が授業聞いてねえなんて……信じらんねえ!今日は奇跡の日だな!よし、この奇跡を逃さない内にちょっとハードルの高いあの子をナンパするぞ!!」


「あ、おばちゃーん!メロンパンとコロッケパンお願い」


「……無視かよ」


「アホなこと言ってないではやく選べよ。売り切れるぞ?」




呆れるほど口数の多い山本を横目で見て、那智はさっさと自分の分のパンを確保する。


那智の言うとおり、他の生徒が次々とパンを買い占めていく。


「へいへい。……でもなあ、那智。俺が今狙ってる子ほんとにかわいいんだぞ?」


「知るかよ」


「ぜってぇ告る。今月中に絶対モノにする」


ぐっ、と拳をにぎりしめる山本。

彼の中指についているゴテゴテした指輪が蛍光灯に反射してキラリと光った。


「お前…今月で何人めだよ?そのすぐ女に飛びつくクセどうにかしろよ」


「那智も、たまにはその無愛想と眉間のシワやめろよ?女の子どころか福も寄りつかねえぞ?」


「大きなお世話だっ!」


那智が声を張り上げると、
山本がケラケラと笑った。


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