水没ワンダーランド
体中のあちこちがギシギシと響くような痛みで目が覚めた。

那智は重たい体をゆっくりと起こす。


柔らかな草の匂いは消え、
代わりに少し埃の混じった匂いがする。


那智は、真っ赤な絨毯の上に座っていた。


「……あれ……?」



なぜ、こんなところにいるんだろう。

ところどころ抜け落ちている記憶。



辺りには誰もいない。


「スージー…?チェシャ猫…?」

そうだ、チェシャ猫。

体の痛みと共に、朧な記憶が少しずつ蘇る。


(あの草原にいたとき、チェシャがいきなりジャンプして…)


地面に着地した瞬間に、地面が割れた。



そう、割れたんだ。
今更考えると、馬鹿みたいな話だけれど。


(それで、そのまま落ちて…)


いくつもの層になった世界。

横がだめなら下がある。

…とはいえ、あまりにも安易なチェシャ猫の考えと、玩具のような仕組みの世界に那智は呆れた。


起き上がろうとすると、体の節々が悲鳴をあげる。


「こっちに来てから、落ちてばっかだ…」


けれど、最初にバスタブから草原に落ちたときよりも衝撃が酷かった気がする。


草よりも絨毯の方がクッション性は高いはずなのに。


そして、声も微妙に掠れていた。
落ちる時間が長い分、よほど激しい叫び声を上げたらしい。


「はは……」


那智は苦笑した。
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