水没ワンダーランド
制服についた埃を払い、辺りを見回す。

さっきまで日がさんさんと照る草原にいたせいか、この薄暗い景色に目が慣れない。


「広ッ……」


広い、というよりも長いというべきか。


那智は小学生の頃、学校の行事で訪れた美術館を思い出した。


那智の前後には赤いカーペットの敷かれた廊下が続いている。

前を見ても後ろを見ても、廊下の突き当たりが見えない。

照明が暗いせいか、廊下の50m先は黒く淀んでいて闇に包まれている。


那智は、このとてつもなく長い廊下の真ん中辺りに落とされたらしい。


「でも俺、落ちてきたはずじゃ…」


那智は頭上を見る。

草原のときは空にぽっかりと出入口らしき穴が空いていたが、今回は穴なんてどこにもなかった。


よく見れば丁寧な細工が施されている天井と、10m間隔でぶらさがっている小さいけれど豪華なシャンデリア。


両壁には世界史の教科書に載っているような、天使の巨大な油絵がかかっている。


貴族の屋敷、というのが那智の第一印象だった。


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