水没ワンダーランド

「な……な…」


気配もなく背後に立たれたということと、

いきなり顔面がどアップで那智の視界に写し出されたということと、

そして何よりその“動物”の風貌に、那智の心臓は跳ねる。




ぱっと見れば、執事の着るような燕尾服を綺麗に着こなした長身の男性のようだ。


しかし、蝶ネクタイをキッチリと結んだ首の上に乗っかっている顔は、明らかに普通の人間のものではない。


チェシャ猫のような被りものをしているわけでもない。


首から上に行くにかけて、クリーム色のモサモサとした毛が生えている。

顎のあたりに到達する頃には、人間の肌はすっかり羊毛のようなそれに覆われている。



「こんにちは、こんにちは」



男の薄く開かれたくちばしからまたもや機械的な声が発せられる。


そう、くちばし。
毛に覆われた男の顔の真ん中あたりには鳥のくちばしが生えていた。


ガラス玉のように大きい目。



鳥、だ。


おとぎ話の絵本で見たドードー鳥。

絶滅したはずのドードー鳥が、執事のような服を着て立っている。


「ドードー鳥…?」


「はい、いかにも。私がドードーです」


ドードー鳥の執事は、抑揚のない声でそう言った。

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