水没ワンダーランド

同時刻、那智からずいぶん離れた場所でスージーは目を覚ました。


「……ここは…」


頬の辺りがなんだかムズムズする。
絨毯に押し付けるようにして気を失っていたせいで繊維の型がついてしまったらしい。


「おはよう、スージー」


振り向けば、そこには絨毯に体を擦り付けるように絨毯を転がり回っているチェシャ猫がいた。


「な、何やってるんですか……」

「気持ちいいよ?」


ほとんど人間の風貌とはいえ、元は猫なのだろうか。

スージーはしばらくそれを呆れたように傍観して、やがてきょろきょろと辺りを見回し始めた。



赤い絨毯が敷き詰められた広い部屋。

スージーのすぐ右隣に金の手すりがついた椅子が二脚、それらに挟まれて同じ装丁の机が置かれている。


その奥に設置されている煉瓦作りの暖炉。火は灯っていない。



「どこかの応接室、かな……」


しかし、豪華なインテリアの割にはそれらはひどく埃をかぶっていて粗末に扱われているようだ。


(……ううん、もう何年もほっぼりぱなしにされてるって感じだな)


椅子の手すりに積もる埃を指先ですくって、スージーは溜め息を吐いた。






「何か、ご用ですか」


「……っ!?」


何もあるはずのない暖炉から、声がした。


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