水没ワンダーランド

くるくるとした細い毛に覆われ丸みを帯びている奇妙な鳥の名前を、スージーは知らなかった。


「ドードー鳥だよ」


チェシャ猫が言う。


「ドードー…?あの人も、迷い込んだ人間?」


鳥と人間を強引に合成させたようなその生き物に、先ほどの骸骨ケンタウロスがだぶった。


しかしチェシャ猫はくんくんと鼻を揺らせて、首を振る。


「違うよー。においが同じだから」


「におい?」


どうやらチェシャ猫は匂いで住人を見極めることができるらしい。

真似るようにしてスージーもすんすんと匂いをかいでみるが、違いはわからない。


代わりに、絨毯の埃の匂いに混じって、鉄の臭いが僅かに漂っていた。


(血の匂い…?)


ぞく、と反射的に鳥肌がたったが辺りに血など一滴も見当たらない。


「いらっしゃいませ、この屋敷にはなんのご用で?」


鳥にしては珍しい、真緑の毛で覆われた緑色のドードーが言った。

「…っそうだ!那智さん……那智さんがどこにいるか知りませんか!?」


那智が居ないことにやっと気づいたスージーはドードーに駆け寄る。


しかしドードー鳥はどこまでも無表情なままでスージーを見下ろす。


「ご用は無いのですか」


ドードー鳥は少し残念そうに言った。


白眼がほとんど存在しない大きな両の目には、生気が宿っていない気すらする。


「え、あの……私たち迷ってしまっただけで…」


思えば、道に迷ってこの屋敷に迷い込むというのも可笑しな話だけれど。

しかし、ドードー鳥はスージーを無視してポン、と思いついたように手を叩いた。

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