寮の夜は甘い夜。
「うーん、それは完全に由良が悪いわね」
ひなちゃんは即答した。
「ええっ!?どうしてさ!」
「由良ちゃん、楓はヤキモチ妬いただけだから」
両思いの滝沢くんまで楓の肩を持つ。
それにしても…
「…ヤキモチ?」
「そうそう。由良に近付く裕司くんとやらが気に食わないわけよ。なのに由良が嫌がらないから妬いちゃってるの」
「ヤキモチって…楓が?」
「他に誰がいるのさ」
「なんか…納得しない。あれが?」
「おいおい、楓をあれ呼ばわり?」
両思いの滝沢くんは肩を竦めるとひなちゃんを抱き寄せた。
ったく、人の前でイチャイチャと。
「楓くんに謝ってきたら?すぐ機嫌治ると思うけど」
夜寝られないのは嫌だからな…
「私は悪くないと思うけど、一応言っとく」
「それ、態度に出しちゃダメだよ?」
「…わかってるよっ」
あんまりにもイチャイチャするから、居心地が悪い。
私邪魔してるのかな?
とりあえず、二人っきりにした方がいいと思って席を立つ。
…部屋に、戻ろう。
まだ寝てるだろうから大丈夫でしょ。
「ひなちゃん、帰るね。おいとまさま」
「はいな、仲直りするんだよー!」
「…うん」
リビングから出てドアの前に立つ。
戻るの、嫌だな。
寝られないのはもっと嫌だけど。
「あーあ」
心が重たい。
「…にしてんだよ」
上から降ってくる声。
前の扉はなくなって、廊下が見えていた。
そして、私の目の前にいる人。
恐る恐る見上げると…
「…楓」