寮の夜は甘い夜。
危険な夜。
つまり、こいつじゃない。
「楓くんっていう人は、初日にペアが決まっちゃってるんだよ。だからこの人は人違い」
「…だから驚いてるんじゃない」
ひなちゃんはポカーンとしたままで、両想いの滝沢くんまでもが心配し始めた。
「ごめんね?あれ、ウソだから。俺は楓くんだよ?」
「…うえぇ、喋り方オカマ…。しかも自分のこと楓くんって…」
「うるさいな、ちょっと真似しただけだろ。ほら、由良行くぞ」
「え、あ、ちょっと待ってよ!ひ、ひなちゃんバイバイ!」
「ああ、うん。ばいばーい」
「由良ちゃんがんばれー」
「両想いの滝沢くんうるさい」
繋がれた手は否応無く私とひなちゃんを引き離す。
しかし、こいつが楓だとは思わなかった。