花は花に。鳥は鳥に。
「正直、連絡がないことで安心してる感じもあります、」
 平井君は落ち着いた様子で、またカノジョの話に戻そうとしていた。
 本当に、親友のほうには触れたくないようだった。
「彼女からメールが来た時には、迷いましてん。今さらって気もありましたし、恨む気持ちもやっぱり、多少はありますやろ?」
 打って変わった軽めの口調で、彼は無理に笑おうとした。
 出来ずに俯いた。

 裏切りに対する怒り。
 それでいて、嬉しい気持ちはもっと大きかったんだ。
 どこか晴れやかな彼の顔は、本当にカノジョに対しての未練までが消えかけている事を知らせる。
 こんな風にさっぱりと、リセットしてしまえる人間にわたしも成りたかったな。
 平井君にとって、二人はもう過去形なんだ。
 過去に流してしまえる人なんだ。
 想い出というカタチに変換して、関係性のメモリからは削除してしまえれば、どんなに楽だろうか。
 わたしは……、まだ、現在進行形から変化出来ない。
 時と共に廃棄されていくメモリを必死になって掻き集めている。

 人それぞれと言うけど、平井君は本当にこれでいいと思っているんだろうか。
 二人のことは、いいんだろうか。
 わたしとは違いすぎて、その違いがなんだか許せなかった。

「このまま、俺とは終わっとくんがええんです。もしアイツと別れたとしても、俺らとは全然関係ない別の奴を探すべきやと思うんです。未練があんのは、お互いやけど……、」
 やはり、あのカノジョが本当には何を言いたがっていたのかを、彼は知っていた。
 自身に言い聞かせるように、平井君は自分の言葉に小さく頷いた。
 未練も、迷いも、断ち切って前を向こうとしていた。
「強いんだ、」
「え? なにがですか?」
「ううん。そんな風にきっぱりと思い切れるって、羨ましいなと思って。」
「そんな事はないです。俺も、心の底では拘りを棄てきれんのです、こんなんでもう一度付き合っても、それこそアイツへの当てつけにしかならへんと思うんです。」
 平井君は、本当にカノジョの事を想っているんだと、解かった。

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