花は花に。鳥は鳥に。
「ほんまのとこは、俺もやっぱり正面から向き合うのは辛いってだけかも知れへんのですけど。」
 苦い笑いで誤魔化すように、それでも言いたげに仄めかした言葉。
 わたしが視線でその先を促すと、平井君は笑みを引っ込めた。
「彼女にどうこうは、ないんです。幸せになってほしいて思ってます。……出来たら、俺がそうしてやりたい気持ちもまだあります。けど、そう考えたらその先に、アイツの裏切りがセットになって思い出されて、あかんのです。」
 強いこだわりはむしろ、親友の裏切りにあるんだ。
 そうだよね、そんなに簡単に割り切れるものじゃない。友達として過ごした長い時間は、なにかあるごとに思い起こされて、なかった事になんか出来ない。

 どうしたら赦されるのだろう。
 わたしは、彼は、この先何年悔いれば赦される日が来るのだろう。

「すんません、辛気臭い話ばっかりして。退屈ですやろ。」
 わたしが目を閉じたことを誤解して、平井君はまた謝った。
「あ、ごめん、ごめん。聞いてなかったんじゃないの。退屈なんて、そんなの全然。」
 ただ、心が痛くて耐えられなかっただけ。
 告白してしまいたい衝動を、なんとか堪えた。
 わたしが言えばさらに話は面倒になる、それじゃ彼は救われない。
 救われたいのは、わたしじゃなくて、彼なんだから。

 また、沈黙の時間が来た。
 間合いを測りかねたように、二人してチビチビとジョッキを舐めて飲み干すまでを引き延ばす。

「こんな話、いきなりでするもんやないですね。なんや、やめときゃよかったて気になってきましたわ。」
 彼は苦笑を浮かべて話の腰をぽきりと折った。
「え、なんで? わたしは聞かせてもらって良かったと思ってるわよ。貴方に近付けた気がする。」
 はっ、と顔を上げた平井君とまともに視線がぶつかった。

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