花は花に。鳥は鳥に。
 すぐに彼は目をそらして、所在無げにジョッキをもてあそぶ。
 わたしの言葉に対するリアクションだと気付くのに少しかかった。
 わたし、何か言ったかしら?

「そんなん……。からかわんとって下さい。女々しい愚痴こぼしてんのが、恥ずかしくなりますやん。」
 微妙な笑みを浮かべて、平井君が言った。
 テーブルを彷徨う視線の意味を、わたしも理解した。
 そんなつもりは無かったのだけど、そう思えば、モーションをかける時の言葉と取れなくもない。
「あのさ……、親友だったその人は、カノジョのこと、ずっと好きだったとかは……ないの?」
 もうこの話はしたくないだろう。
 解かってるのに、気まずさを回避する話題として選んだのは、やっぱり親友くんの話だった。

「そうやったら、まだええんですけど……。」
 さっきのアクシデントが二人の距離を縮めたのか、平井君は言い渋っていた核心の部分を語り始めた。
「アイツが何を考えてたんか、本当のところは解かりまへん。けど、長いこと悩んでたとか、そんなんやないと思いますわ。」
 はっきりと断言した。きっとその点についてだけは確証があるんだ。
 それを聞いてどうなるでもない、わたしは聞き流した。
 確かに、親友君が悩んだとはわたしも思わなかった。

「カノジョは俺に不満でもあったんでしょう。アイツとおったら楽しいて、前に言うたこともありましたし。せやから、別にアイツやのうても、俺らはどのみち終わってたと思いますねん。
 アイツにしても……ほんまに彼女を好きになったんが先やとは思わんのです。
 なんや、俺への当てつけとか、そういうのんが、思い出してみたら見え隠れしてて……。俺、アイツに恨まれるような覚えはあらへんのですけど。」
 自嘲気味に笑いを零して、平井君はビールを一息に煽った。
「やりきれまへんわ、」
 こういう日が来ると、そんな予感は彼にもあったのだ。二人の破局は見えていたんだろう。

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