花は花に。鳥は鳥に。
 平井君の、お酒の進むペースは速かった。
 わたしが一杯呑む間に二杯空けていた。
「アイツ、腹の底では俺のことが気に食わんかったんやと思います。友達やて思ってたのは、俺だけで。」
 半分ヤケのような口調で、本音が滑り出した。
 同時にわたしは、嫌な予感を感じて動揺していた。

「そんなの、解かんないわよ。本人に聞いたわけじゃないでしょ、」
「それはそうやけど……。聞かんでも解かる部分って、あるやないですか。友達のカノジョって解かって盗るって、そういう事やと思いません?」
 口をついて出た言葉は、今まで話した中のどんな言葉よりも強かった。
 ずっと、彼を縛り続けている事実。
 彼の本音。
 ふてくされたような、愚痴のような言葉は、またわたしの心の傷を抉った。
 そうじゃない、わたしは心の中だけで叫んでいた。

 助けてほしい、
 誰か、この状況をなんとかして。
 何を言っても言い訳にしかならなくて、何をどう言えばいいかも解からない。
 そうじゃないの、解かってほしい。
 誰に?

 わたしは下唇を噛みしめて、泣きそうな声で愚痴を言い続ける目の前の男を見ていた。
 堰を切ったように、後から後から沸き上がる言葉の波が、容赦なくわたしの頭上から被さった。
 親友だと思っていた者が、今、得体の知れない何かにすり替わって、彼を苦しめている。

「俺のせいかと自分を責めたりすんのももう疲れました。アイツに腹立てたり、理由を考えたり……、何度、問い質そうかと思ったや知れまへん。そのたんびに、聞いてどうなるもんやないって、諦めて、」
 わたしが犯した罪が、どれほど重いものかを彼はわたしに告げていた。
 わたしも同じ罪人だと知らずに。
 わたしはこんなに酷いことをしたのだと、打ちのめされた彼の姿が突きつけていた。

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