花は花に。鳥は鳥に。
 悔いて、悔いて、どうしようもない絶望に打ちのめされて。
 泣いて、悔やんで、それでも諦めきれなくて。
 失ってしまったものの大きさに、後から気付くんだ。
 出会って数日のカレシカノジョなんかより、ずっとずっと大事な物を失ったことに。

 間違ってしまった事すら、その時には気付かなかった。
 何かが違うって。
 色褪せていく恋心と、逆に膨れあがっていく苛立ちに戸惑ってた。
 間違ってなんかないと自身に言い聞かせる為だけに、祐介に執着していた。
 後悔するのが怖くて、深い後悔の底に沈みこんでいた。

 今、目の前にいるのは紗枝じゃない。
 けど、どうしても言い訳をしたくなった。
 裏切りの理由なんて、貴女が考えるほどのことじゃなかったんだと。
 それをそのままに言ってしまえば、貴方はさらに傷付くんだろうか。

 救ってほしくて。
 今でも救われたくて、こんな場所に流れ着いてきた。

「こういう事を言うと、すごく腹が立つかも知れないけど、怒らずに聞いてくれる?」
 わたしは前置きをしてから、彼に想いを伝えた。
 理解されないことは、解かっていた。
「きっとさ、きっと、その人って、貴方のことを深く頼ってたんだと思うよ? 親友だったんでしょ?」
 そう切り出すと、平井君は一瞬、激高しかけて、それでも怒らずに笑みを浮かべた。
 何かを思い出した微笑みは、どこか寂しげだった。
 こんな風に簡単に、人間の関係が壊れてしまうなんて思ってもいなかった頃を思い出したんだ。
 壊された者と、壊した者と。
 わたしはまた、胸の痛みに泣きたい思いを堪えていた。
 どれだけ悔いても、赦されることはないのかも知れない。

 救われることはないのかも、知れない。
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