花は花に。鳥は鳥に。
天井の板目はそういえば見覚えがないような気がした。自宅の天井なんて、そんなにしげしげと眺めた記憶もないんだけど。カーテンのレース模様に合わせた形の切り抜きで、白い日差しが室内に差し込んでいる。
そういえば温泉旅行中だったことを思い出した。
わたしは、まるで記憶がないながらも布団の中で寝返りをうって、母へと視線を向ける。誰が着せてくれたものだか、旅館の浴衣がごそりと解けてわたしの首を引っ張った。寝相がよほどに悪かったのか、布団の中を覗くと両足が剥き出しに、浴衣の裾はお腹のあたりで丸まっていた。
ぐるりと見回せば、見慣れないけど見慣れた客室だ。
二間続きの奥の部屋は、到着当初はがらんとした畳の間だった。今は布団が二組並んでいる。
その片方に、わたしは潜りこんでいた。
窓辺は板張りのちょっとした廊下。中庭風の廊下の先には家族風呂が付いている。ちょっとお高い部屋だ。
その廊下に母が立っていた。お風呂と逆方向の突き当りに洗面台とトイレがある。洗顔途中の母は、髪をヘアバンドで上げて、腰に手をやって、仁王立ちだ。苦い表情を貼り付けてこっちを見ていた。
わたしが口を開くより先に母は言った。
「遙香っ、昨夜は大変だったんだからね! 板さんにまで迷惑かけて……あんた、彼におんぶされて戻ってきたの、覚えてないでしょ!?」
母に言われた言葉を俄かには受け止められなかった。いや、信じたくない。
一瞬、胃のあたりがすーっとして、それから顔が熱くなった。母の溜息がこれみよがしだ。
「今さら赤くなってもしょうがないでしょ。」
母は怒りを解いた様子で、それから呆れたような顔をした。
「けどまぁ、よかったよ。いつまでも塞いでるから、心配してたの。ここへ来た甲斐があったじゃないの、新しい出会いを喜ばなくちゃ。」
「お母さん、そんなんじゃないわよ、」
わたしが否定すると、母は急に真顔になってこっちへ向き直った。
そういえば温泉旅行中だったことを思い出した。
わたしは、まるで記憶がないながらも布団の中で寝返りをうって、母へと視線を向ける。誰が着せてくれたものだか、旅館の浴衣がごそりと解けてわたしの首を引っ張った。寝相がよほどに悪かったのか、布団の中を覗くと両足が剥き出しに、浴衣の裾はお腹のあたりで丸まっていた。
ぐるりと見回せば、見慣れないけど見慣れた客室だ。
二間続きの奥の部屋は、到着当初はがらんとした畳の間だった。今は布団が二組並んでいる。
その片方に、わたしは潜りこんでいた。
窓辺は板張りのちょっとした廊下。中庭風の廊下の先には家族風呂が付いている。ちょっとお高い部屋だ。
その廊下に母が立っていた。お風呂と逆方向の突き当りに洗面台とトイレがある。洗顔途中の母は、髪をヘアバンドで上げて、腰に手をやって、仁王立ちだ。苦い表情を貼り付けてこっちを見ていた。
わたしが口を開くより先に母は言った。
「遙香っ、昨夜は大変だったんだからね! 板さんにまで迷惑かけて……あんた、彼におんぶされて戻ってきたの、覚えてないでしょ!?」
母に言われた言葉を俄かには受け止められなかった。いや、信じたくない。
一瞬、胃のあたりがすーっとして、それから顔が熱くなった。母の溜息がこれみよがしだ。
「今さら赤くなってもしょうがないでしょ。」
母は怒りを解いた様子で、それから呆れたような顔をした。
「けどまぁ、よかったよ。いつまでも塞いでるから、心配してたの。ここへ来た甲斐があったじゃないの、新しい出会いを喜ばなくちゃ。」
「お母さん、そんなんじゃないわよ、」
わたしが否定すると、母は急に真顔になってこっちへ向き直った。