花は花に。鳥は鳥に。
「巡り合せが、たまたま引き合わせただけの男よ。たまたま、事情持ちだっただけ。遙香はそれを何だと思ったのか、母さんには解からないけど……とりたてて珍しい事じゃないでしょう? 世間はやたらとドラマチックに飾り立てて正当化したがるけど、本当のところはただの、男の取り合いよ。」
母にこんな風に言われたのは初めてで、わたしは息を呑んだ。
何食わぬ顔で、母はわたしの傷心をこんなにも苦々しく見ていたのだ。
母もまた奪われた女だから?
「裏切り者が美化される世の中なんて、裏切られる側にはたまったもんじゃない。うかうか信じた者はマヌケだっていうの? あんまり惨めじゃないの。ただの、男の取り合い。敗者は敗者、選ばれなかったって事だけが事実よ。誰かを裏切ったということだけがね。おまえも、覚悟の上だったはずよ。」
誰の陰口よりも、母の言葉は堪えた。涙がじわりと涌いた。
不倫も浮気も二股も、ずっと続くことはない。どちらにするかで迷う時間というだけだ。そして片方は捨てられる。必ず。
どんなに飾ってみても、選ばれなかった者は選ばれなかった事が事実。
それは、もしかしたら、明日の自分かもしれなくても。
裏切った者にはずっとついて回る、
―― また裏切るでしょう? 次は、わたしを棄てるつもりなの? ――
やり直しは利かない。
わたしは黙り込んでしまった。瞬きもせず、母を見つめる。
目を閉じれば、大粒の涙がこぼれてしまうだろう。
図星がショックなのか、母に軽蔑されているかもしれないことなのか、判別の付かない焦りが涌く。
母の真意が解からなくて、反論するための糸口を必死に探していた。
「過去に捕らわれるなんて大馬鹿だよ、遙香。……そこには何もないよ。」
ぎゅっ、と目を閉じた。
だから、前を向かなきゃいけない。解かってる、解かってるのよ、母さん。取り返しは、つかない。
母の眼差しは、ただまっすぐにわたしを射抜いているようで、目を逸らす事すら出来なかった。
徐々に下を向いていくわたしは、上目遣いで卑屈な表情をしていることだろう。
やがて、母の厳しい顔は、ふにゃりと力を抜いた。
「もうっ、母さんにまでビクつくことないでしょ。しっかりおし、遙香。」
ばしん、とわたしの肩を力強く叩いた。
母にこんな風に言われたのは初めてで、わたしは息を呑んだ。
何食わぬ顔で、母はわたしの傷心をこんなにも苦々しく見ていたのだ。
母もまた奪われた女だから?
「裏切り者が美化される世の中なんて、裏切られる側にはたまったもんじゃない。うかうか信じた者はマヌケだっていうの? あんまり惨めじゃないの。ただの、男の取り合い。敗者は敗者、選ばれなかったって事だけが事実よ。誰かを裏切ったということだけがね。おまえも、覚悟の上だったはずよ。」
誰の陰口よりも、母の言葉は堪えた。涙がじわりと涌いた。
不倫も浮気も二股も、ずっと続くことはない。どちらにするかで迷う時間というだけだ。そして片方は捨てられる。必ず。
どんなに飾ってみても、選ばれなかった者は選ばれなかった事が事実。
それは、もしかしたら、明日の自分かもしれなくても。
裏切った者にはずっとついて回る、
―― また裏切るでしょう? 次は、わたしを棄てるつもりなの? ――
やり直しは利かない。
わたしは黙り込んでしまった。瞬きもせず、母を見つめる。
目を閉じれば、大粒の涙がこぼれてしまうだろう。
図星がショックなのか、母に軽蔑されているかもしれないことなのか、判別の付かない焦りが涌く。
母の真意が解からなくて、反論するための糸口を必死に探していた。
「過去に捕らわれるなんて大馬鹿だよ、遙香。……そこには何もないよ。」
ぎゅっ、と目を閉じた。
だから、前を向かなきゃいけない。解かってる、解かってるのよ、母さん。取り返しは、つかない。
母の眼差しは、ただまっすぐにわたしを射抜いているようで、目を逸らす事すら出来なかった。
徐々に下を向いていくわたしは、上目遣いで卑屈な表情をしていることだろう。
やがて、母の厳しい顔は、ふにゃりと力を抜いた。
「もうっ、母さんにまでビクつくことないでしょ。しっかりおし、遙香。」
ばしん、とわたしの肩を力強く叩いた。