花は花に。鳥は鳥に。
「いい加減、忘れちゃいなさい、遙香。」
 ぐるぐると思考が回っていた時に、母の言葉が天から降り降りてきた。
「今さらどうにもならない事をいくら考えたって、どうしようもないでしょ。」
 本当にしつこいわよ、あんたは。
 そう母は呆れた声で言った。

「こういう観光地だもの。お客の醜態なんて珍しいもんじゃないわよ、酔っぱらいの介抱には慣れてるって、板さんも言ってたわよ。」
 ああ、そっちだったのね。
 いつの間にか話が変わっていて、気付かなかった。
 わたしは本当に過去に捕らわれすぎてる。しつこいくらい。

 思い出したら、途端にまた顔が火を噴いたように熱くなった。
 おんぶされて戻ったってことは……、彼の背中を思い出すと、ますます身体が火照る。
 恥ずかしさに消えてしまいたい気分だ。
「……ちょっと朝風呂はいってくるわ、」
「ついでに頭も冷やしておいで。」
 さらりと母の嫌味に送り出されて、わたしは立ち上がった。
 そうか。母の言葉は両方混ざってる。
 かなわない、酔い潰れた原因まで突き止められてる。
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