花は花に。鳥は鳥に。
「運命なんて大袈裟なことは言わないわ。ちょっとした運。小石につまずく程度。その程度なんだから、ちょっと注意して歩けば、二度三度とつまずくこともないはずよ。そして、小石程度の失敗なんだから、いつまでも泣いてないで、立ち上がって歩き始めなさい。小石程度なんだから。」
 小石、小石って言われると、ちょっと反抗しちゃうな。
 でも、母の言う通り。
 小石ほどの小さな偶然。それが積み重なっただけ。運命なんて、大袈裟なものじゃない。
 一つのつまずきから、次々と選択肢を間違えた。そして取り返しがつかなくなった。
 ……ただそれだけ。

 ため息をついた。
 でもこれは今までのものとは違うため息。
 前を向くためのおまじない。
「よしっ、がんばろっ、」
「そうよ、それでいいのよ。」
 解かってるような、当てずっぽうのような、母の相槌も心地良かった。
 とりあえず、紗枝のことは忘れる。
 ごめん、紗枝。

 フラッシュバックだ。
 突然に甦る過去の記憶。
 校庭のすみっこで、二人だけで砂の山を作ってひとしきり喋り続けてた。
 話題がなんだったかなんてもう忘れてしまっている。

 紗枝はいつも泣いていた。
 あれは確か、小学生の頃。
 わたしが転校したての頃で、そして、紗枝以外の友達が出来なくなった原因。

 紗枝はいじめられていた。もともと他人を調子付かせてしまう性質の持ち主だから、本当に昔っから周囲には酷い扱いを受けている子だったんだ。
 小学生なんて、野生のサルに毛が生えた程度の理性しかない。だから、遠慮も知らない。
 クラス中から疎遠にされていた紗枝と、わたしも一括りに扱われるようになった。

 それでも楽しかったんだよ、紗枝。
 紗枝が居るから、他の子は要らないと思ってた。

 二人だけの世界はわたしにとってはかけがえのないものだった。

< 118 / 120 >

この作品をシェア

pagetop