花は花に。鳥は鳥に。
 いったいいつまで続くんだろう。解かってる、紗枝に許されるまでだ。
 携帯を持つ手が震えて、ディスプレイがぼやけて文字が打てなくなる。
 振り出しに戻るのは嫌。
 懸命に涙を堪えて、零れ落ちないように耐えて。
 これ以上誰かに迷惑をかけるのは嫌。勘の鋭い母に知られるのは……。
 深呼吸で無理やり過去を追い払う。

 もう戻ってきてくれるはずもないのに、まだ許しを乞うつもりでいるなんて。
 紗枝は許してくれないだろう。
 解かってる。だけど、諦めきれない。

「だって、紗枝が可哀そうだったんだもの。」
 信じ切ってた親友の裏切りで心が壊れそうだったカノジョが。

「遙香、」
 母の声は今度こそ咎めるような響きを持っていた。
「いい加減に前を向きなさいって、母さん、何度言えばいいの?」
「ごめん、解かってるの、解かってるのよ、母さん。」
 だけど、勝手に流れ落ちる涙は止めようがないじゃない。
 きっとわたしはこの先も一生、この後悔を抱いて生きていく。
 紗枝に許してもらいたくて、許してと叫ぶ勇気も持てないままで。
 突然思い出される過去の幻影に追われて、怯えながら生きていくのよ。
 裏切りの代償として。

『遙香さん、今頃は大阪に向かう電車の中でしょうか。気分は持ち直されたでしょうか。僕はどうやら元気になれそうです。遙香さんも少しでも元気を取り戻してください。色々話したこと、覚えておられますか。一緒に飲んで意気投合して、楽しい夜を有難う御座いました。また城崎へ来られることがありましたら、ぜひ声を掛けてやってください。お世話になりました。』

 気を遣って書いてくれた文面が、余計に悲しい気持ちを煽り立てた。
 助けてくれようとする沢山の腕を勝手に撥ねつけて。
 こんなに皆がわたしに気を遣ってくれているのに、わたしはどうしても逃げられない。
 裏切った過去は、わたしを捕まえたまま離してくれない。
「……返事、書かなくっちゃ。」
 昂ぶりが、ようやく引いて行く。潮が満ち引きするのに似てる。
 一生付き合うことになりそうで、憂鬱になった。

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