花は花に。鳥は鳥に。
 待ち合わせ時刻は、カレシ達だけ三十分遅らせてあった。

 二十分ほどを質問攻めにされて、そろそろ時間だからと誤魔化して席を立った。


 憩いの広場と銘打たれた小さな公園が待ち合わせ場所だった。

 公園といっても疏水の流れの脇にフェンスで囲いがしてあり、少しばかりの立木が植えられて、ベンチがあるだけのこじんまりした場所だ。

 遊具を置くほどのスペースもない。

 時々はサラリーマンが、この禿げかけた木製のベンチにごろりと横になってたりする姿を目撃した。

 今、そのベンチには男性が二人、並んで腰かけて煙草を吹かしている。


 なぜこの時、遙香の方を見たのかは解からない。

 予感がしたのかも知れない。

 彼女は、ぼんやりとしているように見えた。


「よぉ、遙香。俺らだけでなんか盛り上がってた。」

 ちょいワル風の男が片手を挙げて、ニヤけた顔で遙香に合図をした。

 祐介はぺこりと軽く頭を下げただけだった。

 警戒心の強い祐介にしては珍しく、早々に打ち解けている様子で、驚いた。

 ああいう強気なタイプは苦手かと思っていたのに。


「あたし達だってとっくに合流してたよ。ちょっと向こうでお茶してたの。」

 バラしちゃったよ、遙香。

 祐介は、そういうのが実は嫌いなのだ。

 少し眉間に皺が寄っていた。

 珈琲代をわたしが出さなかった事を見抜いていて、機嫌が少しだけ曇った。

 遙香は社会人である事を強調して、わたしに出させてはくれなかったのだ。

 遙香のカレシはそういう事を気にしない男のようで、ふぅん、と軽く流しただけだった。


 わたしはトロいから、成り行きで奢ってもらう事が多かった。

 それを祐介はよく叱った。

「例えば昼に飯を奢ってもらったら、三時にお茶にでも誘って、そこで返そうと思うもんだ。

 まぁいいかで済ませたらそれっきりになって、結局、返す宛てが無くなるだろう?」

 まるで父親みたいな口調で、そんなお説教を聞かせた。

 高校、大学と、寮生活で親元を離れたわたしに常識を教えてくれたのは、遙香と祐介だ。


 その二人が、この日からたったの二年足らずの時間の後に、わたしに裏切りまで教えた。

 さっきの顔が嘘みたいに、遙香は陽気に笑いながら自分のカレシに甘えて腕を組んだりしていた。

 さっきの、ぼんやりした遙香の横顔がなぜだか無性に不安を煽り立てて怖くなった。

 その視線の先にあるモノがわたしのカレシでない事を、なぜだか必死に祈っていた。

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