花は花に。鳥は鳥に。
「もう具合はいいのか?」

「はい、お蔭さまで。」

 なんだかあっさりした会話だ。


 坂崎課長も浴衣を着て、下駄をつっかけていた。

 紺色の浴衣でなかなかいなせだった。よくサイズあったよね。

 百九十はあろうというヌリカベ男だから、袖とか裾とかギリギリっぽいけど。

 首がかくん、と折れた感じでわたし達二人を見下ろしていた。

 わたしも敬子も背はちっちゃいのだ。


「女子はやっぱり浴衣がいいな、色っぽくて。」

「やだ、課長。セクハラ発言に引っ掛かりますよー。」

 軽口で敬子が言った。

 肩を竦めて課長はやれやれと返す。

「褒め言葉一つでも厳選しないといけないのか。なんて嫌な世の中だ。」

「奥様にだけ言っててクダサイ、社交辞令とか要らないですから。」

 敬子はハキハキと巧い切り返しで課長を楽しませている。

 別段なんとも思っていない相手だから、軽妙な漫才のようにツッコミを入れていた。

 談笑というヤツだ。

 わたしはその隣で、ぎこちなく固まりかけの微笑を浮かべていた。

 浴衣なんて反則だ。


 わたしが意識している事を、課長はきっと気が付いている。

 視線が何度か重なって、その度に向こうから逸らして、そしてまた窺うようにこちらを見る。

 確認するような感じに思えたのは、気のせい?


 なにか含みのあるような、別にそんなものは無いような。

 わたしが自意識過剰になってるだけかも知れないんだけど、やっぱり意識してしまう。

 ちょっと余所を見てからふいと向けた視線が。

 見事に課長の向けた視線と絡んだ。

 なにを期待しているんだろう、お互いに慌てて逸らして解からなかった。

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