花は花に。鳥は鳥に。
 おじさんたちはカウンターの隅に腰掛けていて、手招きで迎えてくれた。

 軽い会釈で、わたしは二人とは逆の隅っこに腰掛けた。

 おじさんたちは気を利かせてわたしを放っておいてくれた。

 落ち着いて呑めるのが一番だ。

 妙齢の色っぽい女将が、わたしの前に来て止まった。


「お姉ちゃん、何処から来やはったん?」

 京都訛りだろうか、やんわりした口調で女将が尋ねてきて、わたしは微笑で返す。

「東京です、社員旅行で。」

「そら、遠い所からご苦労様やねぇ、おおきにえ。」

 心地いい響きの言葉を二三交わして、そして女将もこちらを察して、後は放っておいてくれた。

 寂しい時には、寂しさを満喫すればいい。

 異郷でぽつねんと、愛を疑って不安を抱えて、苦いお酒を流し込んで。

「すいません、水割りください。」

「はい、薄いめでええの?」

 目で合図して、気の利く女将に感謝した。

 流し込みたい気分の時は、ごく薄い水割りを何杯も頼むことになる。

 出てきた琥珀色のお酒を、とりあえずで一息に半分ほども呑んだ。

 あっ、いいお酒だ。

「何かあったんやねぇ。けど、お姉ちゃん、偉いわ。

 くどくど言わんと、飲んで忘れるんが一番や。」

 察しの良い女将さんに乾杯。


 手許で何かしていた素振りの女将が、突き出しに小鉢を置いてくれた。

 分葱と油揚げを酢味噌で和えたものが入っていた。

「在り合せのもんで、堪忍え。」

「いえ。これ、美味しいです。」

 お世辞でなく美味しかった。


 バーの扉がふたたび開いた。

「おいおい、勘弁しろよ。」

 入店した客の第一声に驚いて振り向いたら、思った通りの人が立っていた。

「うげ、」

 小さな声で発したから、聞こえてないよね。

 なんでこんなにも遭遇率が高いんだろう、神様の嫌がらせレベルだと思った。

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