花は花に。鳥は鳥に。
 課長は嫌気が指して出ていくのかと思いきや、そのまま奥へ進んできた。

 そして、こともあろうか、わたしの隣に陣取った。

「勘弁してくれじゃなかったんですか、」

 嫌味で聞いてみると、肩を竦めた。


 浴衣は見たくない気分だったのに、浴衣男が隣に座るなんて。

 けれど、不思議とさっきまで感じていた寂しい気分はどこかへ行ってしまっていた。

 わたしって現金だ。

「いやに不機嫌そうに呑んでるんだな、」

 同じように水割りを注文して、課長が聞いてきた。

「タダ酒を呑み損ねましたから。」

 ちびりとやって、洒落で返事をしたら、いたく気に入ったようで笑った。

「それは仕方ないな。

 伝統芸だ、うちの社では美人は酌に回せっていう暗黙のルールがあるから。」

「美人でも立たなかった人、居たじゃないですかー。」

 何人かのお局様の顔が瞬時に浮かんで、わたしは口を尖らせて抗議した。

 まぁ、だいたいの見当は付くけど。


「総務の女王様がたに酌なんぞされちゃ、逆に縮み上がるだろ。」

「ですよね。」

 若くて可愛い男性社員を侍らせていた姿を思い出して、わたしも肩を竦めた。

 純然と、ヒエラルキーは存在しているのだ、宴会会場にすら。

 わたしは下手な謙遜はしない主義だ。

 自分のレベルがどのくらいか程度は把握している。

 呑めるお酒の量も。

「すいません、おかわり下さい。」

「はい、さっきと同じでええの?」

 お願いしますと笑顔を作る。了解して女将も笑顔で頷いた。


「こっちも一つ、」

 課長はハイペースで呑んでいた。

 それ、三杯目ですが大丈夫ですかと聞こうかどうかで悩む間に、一気に半分に減った。

「さすがにペース早すぎないですか?」

「俺も呑み損ねたクチだから、心配ない。」

 嘘つけ、散々呑んでたじゃないのー、とツッコミを入れてしまいそうになった。

 チラチラと会場でも目で追っていたから、どのくらい呑んだかは見当が付くですよ。

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