花は花に。鳥は鳥に。
 繰り返される謝罪。

 同じことの繰り返しで、まったく誠意なんて感じなくなっていたけど。

 うん。バカなんだったら、仕方ないのか。


「美作、お前って割と潔癖症だったんだな。」

「よく言われます。頑固者だとか、古臭いだとか。」

 キリッと身を引き締めて答えると、課長は呆れたような苦笑を浮かべた。

「その理屈は、失敗したことのないヤツが吐く理想だよ。」

 そう言って、課長は水割りを呑みほした。


「ママ、もう一杯。」

 おーい、何杯目だー。

 お宅の旦那、調子乗っちゃってますよ、奥さーん。

 京美人なママが、にっこり笑って頷いた。

 たぶん、会話の中身を聞いていても、聞かないフリでさりげなく流してくれている。

 間をおかずに出てきたグラス、少し薄くなった琥珀の酒の中で大きめの氷がカランと鳴った。

 課長の大きな手の中で。


「みんな同じじゃない。

 頭じゃ解かってても、なかなか実感で解かることは難しいんだよなぁ。」

「解かってますよ、わたし。

 別にカレシに自分と同じ価値観を求めてるわけじゃないです。」

 ちょっと意地になってしまっているかも知れない。

 自覚があるくらいだから相当だ。

 課長は子供に言い聞かせるような態度になった。

 顔をこっちへ向けた。

「美作。理想の恋が目の前に転がってこようが動じることがない、ビクともしない人間ばかりじゃないんだ。

 グラグラしちまう人間も居るし、ついつい手が出てしまって後悔するバカも居るんだよ。」

 そのバカは、わたしのカレシを指してるんでしょうか。


 また課長の顔は前を向いて、グラスを傾けた。

 口を尖らせているように見えるから、愚痴っているようだった。

「自由恋愛だの何だのと誤魔化しても、誰かを裏切って傷付けてる事に代わりはないだろ。

 解かってても止められないだけの、ただのバカだ。」

 まるで自分に言ってるように聞こえますよ、課長。


 課長に惹かれていく自分を、わたし自身はそういえば疎ましく感じている。

 わたしも負けず劣らずで、バカなんだ。

 他の誰かに目移りしたことのない人間は少ないと思うから、人類すべてがバカという事で結論していいんだろうか。

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