花は花に。鳥は鳥に。
 二人バラバラで戻るとますます疑われかねないからと、いっその事で二人連れ立ってホテルへ戻った。

「なんで浴衣着替えたんだ? 勿体ない。」

「さすがに夜間なので防犯上の警戒をと思ったんですが、」

「気の回し過ぎだった、と。」

 周囲を見回したわたしに、課長が台詞の後を予測して答えた。


 ホテルの玄関口は煌々と明かりが灯って、まだまだ夜の宵口を思わせた。

 けれど、玄関ホールの大時計の針は十時に近付いていた。

「寝る前にひと風呂浴びたかったんだ、」

 課長はいきなりお店を出てきた理由をここで明かした。

 外湯も内湯も、だいたいは十一時までになっている。


 課長と別れて、わたしも割り当ての客室へ戻った。

 寝たと思った敬子がぶーたれて布団の上で待ち構えていた。

「なによぉ! 置いてくなんてヒドイじゃない!」

「えー。だって、敬子、酔っ払って潰れてたじゃん。」

「引きずってけば途中で目が醒めたかも知れないでしょ!?」

「そんな無茶苦茶な……、」

 よく聞けば支離滅裂な会話。

 途中でいきなり敬子が「あっ!」と声を上げた。


「お風呂! ちょっと、今、何時よ!?

 あたし、絶対、寝る前に最後にお風呂入るって決めてたんだから!」

「大丈夫よ、まだ充分余裕あるって。」

「じゃあ、付き合いなさいよ。」

 わたしはもうさっぱりしてきました、とは空気が言わせてくれなかった。


 わたし、今夜だけで何回お風呂入るんだろ。

 ふやけるよ、さすがに。
 
< 39 / 120 >

この作品をシェア

pagetop