花は花に。鳥は鳥に。
 おばちゃん、このホテルに泊まってたんだ。偶然ってコワイ。

「……なんか、スゴかったね、紗江のおばさん?」

「うん。うちの母方の親戚で、一人だけ大阪に行った人。」

 だから毛色が違うというか、向こうに染まったというか、親類の中では異色の人だ。

 母から聞いた話じゃ、若い頃に駆け落ちしたんだとか。

 三姉妹の末っ子で、可愛がられたのにしなくていい苦労を自分で背負いこんだって、いつもボヤき気味に話していた。

 そういえば叔父さんも豪快な人だな、なんて思い出した。

 酷い浮気性だったらしい。

 そういう事まで思い出すと、わたしの男運も血筋かと考えてしまってブルーだ。


 ああ、いけない。お風呂に行こうと思っていたのに。

 ロビーの大時計を見ると、十時十五分だった。外湯はだいたい十一時までだったはず。

 間に合わなかったら、内風呂へ行かなきゃいけなくなる。

 叔母が居ると思われる内風呂は、今はちょっと遠慮しておきたかった。


 早足のお蔭でお風呂にはなんとか間に合った。

「ねぇ、紗江。浴衣の着替え頼んじゃってもいいよね?」

 息せき切らして敬子が聞いてくる。

 いいんじゃないの? 予期せぬ運動のせいで汗だくだもん。


 わたしにとっては三度目、敬子は二度目のお風呂は、最初とは違う方へ行った。

 お湯は源泉が一緒だから、基礎効能は同じだと思うのだけど、微妙に違ったりするそうだ。

 何が原因なのか、聞けば教えてくれるだろうが長くなったら嫌だから聞かずにおいた。

 なによりわたしは今現在で、入浴禁止の酔っぱらい様なのだ。バレたら困る。


 露天風呂は、いい感じに顔の火照りだけ冷ましてくれる。

 この時間帯でも建屋の方の湯船では何人もの女性客が身体を流していた。

 こっちは今のところ、敬子とわたしの二人だけの貸切だ。

「はー。いいお湯。」

 やっとゆっくり出来る。

「ねぇ、ねぇ、紗江。」

 そう思っていたのに、敬子の声には不穏な響きがたっぷりと含まれていた。

 やだなぁ。なんか面倒くさい事言われそう。

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