花は花に。鳥は鳥に。
 敬子は小柄ながらも着太りしてしまうタイプで、それをいつも気にしている。

 その原因が湯の中でたゆんたゆんして、目のやりどころに困ってしまった。

 隠そうともしない彼女。

 いくら女同士だって言っても、少しは恥じらいがあっていいんじゃないの?


「ねぇ、紗江。坂崎課長ってさ、絶対あんたに気があるわよ。」

 自信満々で、上目遣いでわたしの顔を覗き込んだ。

「やめてよ。だいいち既婚者じゃない、面倒事はお断りよ。」

 それ以前に、わたしが今どんな状態か解かってるはずなのに、何を言いだすんだか。

 しかもその問題はさっき解決してきました。


「そーなのよねー。

 結婚してなきゃ申し分ないと思うんだけどさ、残念すぎよね。」

「何が残念なのよ。わたし、付き合ってるカレシ居るんだけど?」

「それがまた解かんないのよねー。

 ここまでされたら、あたしだったら別れちゃう。」

 そんな事言って、実際になったら解かんないよ。

 わたしだってそう思ってたクチだもの。

「これ言ったら、紗江は怒るかも知れないけどさ、あの男のどこがいいわけ?」

「強いて挙げられるイイ点ってのは、ナイ。」

 本当に不本意だけど。


 いつもわたしを引っ張ってくれる男らしさは、簡単に自分勝手にすり替わったし。

 時たま見せる優しさとか気遣いなんてものは、それこそ単なる思い付きだった。

 無いよりマシ、もっと酷い男なんて世の中にたくさん居るからと、わたしはわざわざ下を向いて自分を慰めていた。

 十人並み、どこにでもいる普通の男だ。


「幾らでも出会いなんてあるじゃん、どうして拘ってんのよ?」

 暗に、別れてしまえと仄めかす言葉。

 事情を知る友人は、誰もが異口同音に同じ趣旨の言葉を最後には使った。

 けれど、わたしにはわたしなりに思うところだってあるんだ。

「キープ、とか言ったら失礼かもだけど、次の出会いがあるかなんて解かんない。

 もし、出会いがあったとして、そのカレシがどんな男かも解かんないでしょ。」

 祐介よりイイ男だったら、祐介を忘れられる、なんてとても思えなかった。

「そんなの、当たり前じゃない。」

 敬子はわたしの台詞を額面通りに受け止めて、吐き捨てるように言った。


 冒険はしたくない。

 もっと酷い男に当たったら、もっと傷付くことになる。

 それより何より、

「前カレと比べて後悔するって、なんとなく自分で解かるのよね。」

 ため息しか出ない。

「なにそれ? 実は後ろ向きなヒトなのねぇ、紗江。」

 うん。自分でとても後ろ向きだと思う。

 徹底的に嫌いになれたら良かったんだけど。

 そうでないから、迷ってしまう。

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