花は花に。鳥は鳥に。
 どれだけ嫌なところが沢山あっても、それは嫌いとは違うから、愛が醒めない。

 指折り数えるくらいに、嫌だと思う欠点を思いつくのに、じゃあ別れてしまおうかとなれば躊躇する。

 そういう自分が情けなくてブルーな気分なんだ。

「じゃあさ、紗江。それでも別れちゃったら、その時は教えてよ。

 イイ男紹介したげるから。」

「もー。縁起でもない事言わないでよ。」

 冗談と言うことで受け取って、笑いで流してしまったけど、本当は嬉しかった。


 また課長のことを考えた。

 課長の望みなんて、ささやかなものだ。

 ただ、奥さんにとっては重荷過ぎた。

 子供が欲しい、ただそれだけ。

 だけど、育児で奥さんが失う時間は馬鹿にならない長さだと思う。

 人にとっての大事なものが、誰でも同じ価値を持ってるわけじゃない。


 うーん。逃した魚は大きかった?

 奥さんには悪いけど、わたしがその気になってたら、どうだったかは解からない。

 男と女なんて、どこまで譲歩出来るかだよ、奥さん。

 パズルのピースと同じで、噛み合わなければ別のピースを探すだけ。


「あっ、見て、敬子。きれーなお月様。」

 満天の星空なんて東京じゃ拝めやしないから、この機会に堪能しておこう。

 こんな色っぽい街に祐介と来るなんてたぶんきっとアリエナイから。


 真っ黒の木立の陰が裾を縫って、眩いばかりの星空が一面の天蓋を覆い尽くす。

「ラメの布地ってさぁ、こんなんじゃなかったっけ?」

 的確というか、浪漫をちょっと格下げにする表現で敬子が夜空を褒めた。

 この星空は、凄いんですけどね。


 今度こそ満足して、ホテルに戻った。

 フロントで新しい浴衣のことを相談したら、快く用意してくれた。

 たぶん、追加料金になるんだろうけど。

 メールの着信が鳴った。

「誰? カレシだったら、じらしときなよ、紗江。」

「ん。……お母さん。」

 意地悪い顔で期待していた敬子は、わたしの返答でがくん、とうなだれた。

 本当は二通来ていた。

 お母さんと、祐介から。

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